2006年10月21日

英訳を前提?

一応「読書感想文」として分類してありますが、前回の続きのようなものです。

原書を読めるなら翻訳を読む必要はない、と思われる方も多いでしょう。

でも、私は翻訳を読むのが決して嫌いではありません。
それも、あまり意訳しすぎていないような、SF小説の翻訳(原書で手に入りにくい、という事情も影響していますが)などが結構好きです。

何が良いか、と言うと、翻訳された文章を読んでいると、時々日本語の訳文を読みながらフッと「あ、原書ではこういう表現を使っていたのだろうな」と英語の表現が頭に浮かぶのです。

翻訳ではないにも関わらず、同じ効果があるのが村上春樹の文章です。
彼の小説も、日本語で書かれているにも関わらず、読みながら頭が勝手に英訳してしまうのです。それどころか、ところどころにカタカナ語での言葉遊びさえあって、「これは英訳されることを前提にしているのだろうか」と思ってしまうことがあります。

これは彼自身、翻訳も手がけている経験が影響している、と言われていますね。

とにかく、動詞が多く、各々の動詞に対する主語が明確であることが多いのです。
前回指摘したような、SとV中心の文の構造が、日本語で体現されているのです。

実は、英作文を添削するとき、日本語から直訳しているかどうかの一種のメルクマールになるのが、主語に対する動詞の数なのです。
動詞が極端に少なければ、一目で「これは日本語で推敲したんだろうな」ということが分かります。
でも、村上春樹の文章であれば、どんな初心者が訳してもナチュラルな英語になりうるでしょう。

英訳をしながら勉強したい、というのであれば、こういう文章を題材にするのが一番かもしれません。


ちなみに、先日、村上春樹が大好きだ、という日本語がぺらぺらの同僚と話をしていたところ、彼は面白いことを言いました。

「村上の小説を読んでいると、彼が本当に日本人なのかどうかを疑いたくなってしまうね。だって、音楽をはじめ、小説の中で話題になるのは日本の文化よりも西洋の文化の話ばかりではないか」

確かに、彼の小説の主人公はジャズやクラシック(ポップスでも洋楽)ばかり聴き、作る食事(主人公は男なのに、なぜかいつも料理が上手いという前提になっている)もパン食中心、飲むお酒も洋酒ばかりですね。

その同僚に対しては「私の父だって、オペラには詳しいけど、能や歌舞伎は全く分からないよ」と反論したものの、やはりこういう現象は外国人から見ると「日本人らしくない」と映ってしまうのか、と考えてしまいましたね。

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2006年06月20日

Freakonomics

「常識」という言葉は英語に直すときに結構苦労するような気がします。
誰でも「知っているべき」ことであれば、common sense だろうし、誰もが「持っている知識」であれば、common knowledge でしょう。(もっとも、アメリカ英語ではあまりこの表現は使われていないみたいですが)
ある特定の分野に限定されているものであればsavvy が一番かもしれませんし。

でも、我々が「常識」という言葉を使うときには「誰もが真実だと思っていること」も含まれていますよね。この言葉にぴったり該当するのが、J.K.ガルブレイスが著書『豊かな社会』(The Affluent Society)で提唱した conventional wisdom だと思います。

"Freakonomics"はこの意味での「常識」に戦いを挑む本です。
(大分前に話題になった本なので、すでに日本語訳もでており、題名は『ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する』となっています)

テーマは多岐に渡っており、日本の大相撲の力士は八百長をしているのか?絶対八百長をしない力士は見分けられるのか?に始まり、親が一生懸命教育(本を読み聞かせたり、美術館に連れて行ったり)した子は優秀に育つのか?や親が子につける名前にはどのような経済的な影響があるのか?などの疑問に経済学の見地から答えるものです。

最も面白かったのは「出会い系サイトで成功するための法則」でした。私は男性と会うための出会い系サイトは利用していないのですが、個人的に教える生徒さんを見つけるためのサイトには登録してあり、メカニズムは似たようなものだからです。
写真が無いのは致命傷みたいですね。私も気に入った写真が無かったため、アップしていなかったのですが、これを読んで反省しました。(それに冷静に考えれば、それほど美人に写っていないほうが不純な動機の人をスクリーニングできるはずですよね)

大分本題から逸れてしまいましたが、本のメッセージとしては、「常識を徹底的に疑え!」と「因果関係(causality)と相関関係(correlation)を混同するな!」みたいなものでしょうか。
かなり説得力があります。

どこまで真に受けて良いのかは分かりませんが、エンターテインメントとしては最高でした。文体も口語体の非常にくだけたものであり、一気に読めてしまいます。教養がありながらもくだけた英語がどういうものか知りたい、という上級者にオススメですが(語彙や言い回しはかなり難しいものが多い)、上に紹介した問題に興味を持っておられる方でしたら意外とすらすら読めてしまうかもしれません。
ページ数も本文のみは204ページと決して長くない上、チャプターごとに完結しているので、「面白そうだな」と思えた方は是非!

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2006年06月16日

職業病

来る日も来る日も他人の英語を直す生活を送っていると、間違っている英語や明確ではない英語表現というものにものすごく敏感になってしまいます。
一種の職業病(occupational hazard)と言えるかもしれません。

これは何も100人100色シリーズに対する批判のように、日本人の書いた英語にのみ向けられるわけではありません。
ネイティブの間違いでも気になって仕方がないのです。しかも、出版物やニュースなど、ある程度権威のある媒体の間違いです。

例えば、この間見ていたCNNの特番。
キャスターの方が "could care less"(全く気にかける)というフレーズを口にするのを聞いた途端、「それは "couldn't care less"(全く気にかけない)の間違いでしょう」とツッコミを入れたくなってしまいました。(ちなみに内容は、パパラッチの写真を掲載する雑誌の場合、セレブへのアクセスが限定されても全然平気だ、というものでした)

あと、小説を読んでいてもミスプリ(typos)が異様に気になったりします。ハリーポッターの第三巻 "The Prisoner of Azkaban"のペーパーバック版で "with bated breath"(息を潜めて)が私が持っている版では "with baited breath"(息を釣られて)になっていることを発見し、びっくりしたことを覚えています。
(暇な人はチェックしてください。290ページのミスプリです)

これは何も私だけではないみたいです。同僚の中には「毎日 "The Wall Street Journal" で最低一つの間違えを見つけることを日課としてる」、と豪語している奇特な人もいます。

もっとも、今まで著者の英語力そのものに疑問を抱かせるような本はあまり読んだことがありませんでした。
Steve Berry 著の ""The Amber Room"" を読むまでは、です。

この本は本屋さんでの「ダン・ブラウンのファン必読!」というキャッチコピーに騙されて思わず買ってしまったのですが、完全に期待が外れてしまいました。
手の内を明かさないことで読者に期待感を抱かせる手法は確かにブラウンと同じなのですが、ダン・ブラウンの作品では最後で「なるほど!」と唸ってしまったのに対し、これは「はあ?」と拍子抜けてしまっただけでした。

それよりも問題なのが、著者の英語です。
まず、文法的に気付いたのは、この方はやたらと副詞(adverbs)を動詞(verbs)の前に置きたがるのですよね。

副詞は動詞の後に来るのが原則です。
e.g. "I quickly ran," ではなく"I ran quickly."

たまに諸々の理由でわざと副詞を動詞の前に配置することもありますが、これは例外に過ぎません。

なので、
"...she quickly discovered that she... insinctively possed the abilility...and she greatly enjoyed..."

のように副詞→動詞というコンビネーションが立て続けに並んでいるのを見たとき、ら抜き言葉の羅列を読まされたときのように眩暈さえしてきました。

また、この作家さんの場合、男性二人だけの会話であっても、たまに"" "his " "him" などの言葉がそれぞれ一体誰を指しているのか分からなくなってしまうことがあるのです。明確性(clarity)に欠けるのです。
Tom Wolfe は "I am Charlotte Simmons" にて丸々一ページ分続く文を書いていましたが、それでも読者として道に迷うことは決してなかったのとは大違いです。

いや、それどころか、たった二人の会話なのに、一体誰がその台詞をしゃべっているのかさえあやふやな場面があります。『ハリー・ポッター』シリーズでは一つの場面で6人以上の大人数で会話していても誰が話しているかが常に明らかであることを考えれば、本当に文章が下手である、としか言いようがありません。

買ってしまった私が言うのはおかしいかもしれませんが、どうしてこんな本がベストセラーになったのでしょうか?
posted by EnglishMaster at 00:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月18日

Digital Fortress

アメリカ人が日本を舞台にして書いた本を読んでいると、あまりもの勘違いに呆れてしまうことが多々あります。

もちろん、丹念なリサーチに基づいた、現実(もしくは史実)に忠実 (faithful) であるといえるものもあります。
例えばJames Clavell著の"Sho-gun""Gai-jin"。いずれも登場人物のネーミングには少し意義を唱えたくなりますが、少なくとも前者においては物語が豊臣秀吉、徳川家康、三浦按人(William Adams)、そして細川ガラシャという歴史上実在した人物に基づいている点に配慮したのかと考えられます。

最近の本では Arthur Golden 著の "Memoirs of a Geisha" もこの部類に入るでしょう。
ちなみにこれは翻訳版(邦題 『さゆり』)も出ており、来月にはチャン・ツィイーと渡辺謙主演のハリウッド・映画版がリリースされます。


しかし、残り多数の作品(特に大衆小説)においては、未だに日本を「キモノとゲイシャの国」と勘違いしているとしか思えません。
特に酷いのは Tom Clancy の "Debt of Honor"(9/11のテロリストのインスピレーションになったと言われている本)やMichael Crichton著の "Rising Sun"でしょうか。

残念ながらDan Brown(『ダ・ヴィンチ・コード』の著者)による"Digital Fortress"は後者の部類に入れざるを得ません。

この小説は日本を舞台にしているわけではありませんが、登場人物の二人が日本人であるという設定のため、日本に関する話題がいくつか出てきます。が、一体どこでどうやってリサーチしたのだろう、と首を傾げてしまいます。

まず、日本人の登場人物の名前から。

一人は Ensei Tankado(厭世???)、もう一人を Tokugen Numataka(沼高 徳元?)と言います。
Ensei さんは敬虔な仏教徒であるという設定からこういう名前にしたのかもしれませんが、お坊さんではありませんし、なんとなく可笑しいですよね。「タンカド」に至ってはどのような漢字を当てはめれば良いのかさえ分かりません。
Tokugen さんは戦国時代の武将ならあり得る名前かもしれませんが、現代のハイテク企業 (Numatech) の社長としてはちょっと、という感じです。

さらに Tokugen さんの渾名は "akuta-same"。これは恐ろしいサメの一種ということらしいのですが、そんな種類のサメは聞いたことがありません。

そして Tokugen さんが一番気にしているのが "menboko"(面目) 。ただし、小説の最後の方では "menboku" に綴りが訂正されていました。
「冥利」は正しく "myouri" になっていました。

また、気になるのは Ensei さんの出身大学。一応同志社大学ということになっているのですが、小説の中の読者は間違いなく同志社大学が東京の大学であると思い込んでしまうでしょう。(京都の大学なのに)

最後に、Tokugen さんが自分の幸運をもたらしてくれた、と喜ぶのが "shichigosan"。原文では "the seven dieties of good luck" となっているため、「七福神」と言いたいのだろう、という点は理解できるのですが、一体なぜ「七福神」が「七五三」になってしまうのでしょう。

このような間違いがある場合、誰が原稿をチェックしたのかが非常に気になります。大学の日本文学、もしくは日本経済等の教授でしょうか。日系二世の方でしょうか。日本に長く住んだ外国人でしょうか。それともアメリカに移住して大分時間が経ち、日本語と日本文化を忘れかけている日本人でしょうか。

細かい、と思われるかもしれませんが、"The devil is in the details," すなわち、細部での間違いでも全体を損ねてしまいます。
作者の方も、編集者の方も、他国の文化を紹介するときにはもっと気をつけていただきたい、と思う今日この頃です。


shogun.jpg  gaijin.jpg  memoirsofageisha.jpg  debtofhonor.jpg  risingsun.jpg  digitalfortress.jpg

posted by EnglishMaster at 00:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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