2005年10月28日

ブッシュとカリグラ

米最高裁判事候補 (candidate for the United States Supreme Court) になっていたハリエット・マイヤーズ (Harriet Miers) 女史がついに候補を辞退しました。

ちなみに日本では誰が最高裁判事になろうとあまり話題になりませんが、いつ自分が裁判の当事者になるか分からないアメリカにおいては連邦最高裁判所 (United States Supreme Court) が自分の権利を守ってくれる最後の砦 (court of last resort) とみなされており、空席が生じると誰が判事になるかは一般人やマスメディアからもかなりの注目を浴びています。

TIME誌によれば関係者から mediocrity (凡人)、crony (えこひいきされている人)、"the least qualified candidate since Caligula named his horse to the Senate" (カリグラ帝が自分の馬を元老院議員に指名して以来の最も不適切な人事)、などと散々な評を得ていたマイヤーズ女史、上院議員に対するあいさつ回り (courtesy calls) によっても点を稼ぐどころか却って評価を落としてしまい、ホワイトハウスでも彼女の辞退に胸をなでおろしている (breathe a sigh of relief) みたいです。
あまりにもバッシングが酷すぎて可愛そうな気もしますが、写真を拝見する限りとてもタフそうなおばさんです。彼女ならきっと立ち直れる (get back on her feet) のでしょう。


さて、このカリグラ帝が自分の馬を元老院に推挙したという故事、みなさんご存知ですか?
古代ローマ帝国の三代目の皇帝に当たるカリグラは若くして皇帝になり、「パンとサーカス」というフレーズに代表される人気取り政策によって国家財政を破綻させたことで有名です。また、お気に入りの馬を元老院に推挙するような少々頭のおかしい人だった、というのが一般的な西洋人の認識です。特に民主主義至上主義のアメリカのような国では「民主的に選ばれていない元首だとろくなことが無い」という主張をバックアップするためによく引き合いに出されますね。

ところが、最近読んだ塩野七生著の 『ローマ人の物語 (18) 悪名高き皇帝たち (2)』 によれば、事態はそれほど単純ではないみたいです。

塩野氏によれば、カリグラは精神的には未熟であり、国を動かす技量は足りなかったにせよ頭は決して悪くなく (現にお金を浪費する新しい方法を考え出す能力は天才的であった) 例の馬を推挙するという故事も当時の元老院の質の低さを嘆いて皮肉で言ったに過ぎないというのです。

また、派手な見世物を民衆に提供することに熱中したのも即位当時の高い人気を失うのが怖いあまりに、人気取りに必死になってしまった結果である、ということです。

うーむ。説得力あります (persuasive) ね。

と同時に、現代のある大統領とも共通点が見えてきます。
テロ対策で高まった人気を失うのが怖くて、不要で不毛な戦争に突入した大統領。
圧倒的な人気の元に二期目を迎えた後、図に乗ってしまった大統領。(カリグラも即位当時は絶大な人気を誇っていました)
支持基盤を失うのが怖くて、ハリケーンによる打撃で燃料が高騰した今でも明確な省エネ政策を打ち出せずにいる大統領。

もうお分かりですね。ブッシュです。
...というと、怒るアメリカ人もいるかもしれませんが。

ところで、前述の民主主義至上主義の下、アメリカでは一般的に共和政ローマは高く評価しながらも帝政ローマは批判的に見る方が多いです。
しかし、『ローマ人の物語』を読んでいると、ローマの帝政は様々な抑制と均衡 (checks and balances) が働いているシステムであり、そのような意味ではアメリカの大統領制ととても似ているように思われます。
その点、二代目皇帝ティベリウスのように不人気であっても良い仕事を続けることを可能にした「非民主的な」システムもあながち悪くないのかもしれませんね。
posted by EnglishMaster at 22:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック